ちょっと笑える小話集-いっぱいいっぱい

新入社員の頃、僕はあらゆる事に関していっぱいいっぱいだった。

 

余裕がないので色んな面で抜けているのだ。

 

ある日僕はいつものように自分のクルマに乗り込んで出社した。

 

運転してすぐに気がついたのだが、携帯電話を充電器に差し込んだまま家に忘れてしまっていた。

 

戻って取りに行く時間はない。 遅刻してしまう。 とりあえず出社してどこかのタイミングで取りに帰ろうと考えた。

 

今日は重要な書類が取引先に届く予定の日だ。 もし、何らかの手違いで今日届かなかったら大変な事になる。 夕方までに届いたかどうかの確認をしなければならないが、連絡先は携帯にしか入っていない。 それまでに家に行かなければと運転しながら考えていた。

 

会社についてからしばらくは雑用を押し付けられ、午前の業務も終わろうとしていた。

 

ふと自分のデスクを見ると先日取引先に送ったはずの重要書類が僕の所に戻ってきているではないか!

 

その書類は事務の女の子に送るようにお願いしたのだが、彼女も新入社員だった。 宛先と送り主を反対にしてしまっていたのだ。

 

僕は重要な業務を他人任せにした事を反省し、重要書類を片手にすぐさま営業車に乗り直接届けに向かった。

 

取引先の事務所は街中にあり、僕はコインパーキングにクルマを停め事務所へと急いだ。

 

取引先の相手はあいにく外出中だったので重要書類はメモを添えて事務員さんに手渡した。

 

ひとまず安心だ。

 

そう思ったのも束の間だった。

 

 

 

財布がない。

 

そう。 書類を片手に慌てて出たので財布を会社に忘れていたのだ。

 

これじゃ営業車を出せない。

 

仕方なく僕はタクシーを拾った。

 

会社に到着した時にタクシーには少し待ってもらい、財布を取りに行ってお金を払った。

 

痛い出費だが自分のせいだ。 仕方ない。

 

会社に着くと10通ほどファックスが届いていた。

 

携帯がつながらないので色んな取引先がファックスで注文をしてきていたのだ。

 

5時までに注文をパソコンに打ち込む必要があったのでとりあえず事務作業をこなす事にした。

 

作業中営業車の事が気になって仕方がなかった。

 

何とか全ての作業が終わったので急いで営業車を取りに行こうと思った……が、ここで焦っては同じ事の繰り返しだ。

 

僕は深呼吸して必要な物を一つ一つ確認した。

 

 

 

財布は持っている。

 

財布の中に十分なお金は入っている。

 

営業車のカギも持っている。

 

免許証もある。

 

 

とりあえず忘れ物はないようだ。 僕も成長したもんだ。

 

僕は余裕を持ってクルマに乗ってコインパーキングへと向かった。

 

 

 

コインパーキングに着くと頭の中が真っ白になった。

 

 

体はひとつなのに車が2台あったのだ。